ずん
「有名作家が無名ライターの研究パクって本出したっぽいんだけど、これやばくないのだ?」
やきう
「ワイもよう知らんけど、こんなん日常茶飯事やろ。搾取される方が悪いんや。」
でぇじょうぶ博士
「やれやれ...。この件は非常に興味深い倫理的問題を孕んでいるでやんす。篠田節子氏の『青の純度』と原田裕規氏のラッセン研究の酷似について、少し整理するでやんす。」
ずん
「でもさー、小説なんだから別にいいんじゃないのだ?フィクションでしょ?」
やきう
「そうそう。お前だってパクりまくって生きとるやないか。今更何言うとんねん。」
でぇじょうぶ博士
「確かに小説はフィクションでやんすが、問題の本質はそこじゃないでやんす。原田氏が10年以上かけて自費でハワイまで行って集めた情報、たとえばラッセンが山火事で行方不明になった事実とか、日系人の墓石が西を向いている話とか、そういう独自のリサーチ内容が物語の骨格になっているのに、参考文献リストから意図的に排除されているように見えるでやんす。」
ずん
「えー、でもそれって偶然の一致かもしれないじゃんか。考えすぎなのだ。」
やきう
「ワイもそう思うで。有名作家様が無名のライターなんか参考にするわけないやろ。自意識過剰ちゃうか?」
でぇじょうぶ博士
「ふむ...。しかし状況証拠を見ると、偶然にしては一致点が多すぎるでやんす。『美術界から黙殺されながら大衆に人気』という評価軸、『商法と作品を切り離して再評価する』というテーマ設定、ハワイでのリサーチの旅路、災害による画家の安否不明、墓石の方角...これだけ重なるのは統計的にありえないでやんす。」
ずん
「じゃあさ、訴えればいいじゃん。著作権侵害で訴訟起こせばボロ儲けなのだ!」
やきう
「お前アホか。アイデアには著作権ないんやで。それに裁判費用でむしろ赤字やろ。」
でぇじょうぶ博士
「その通りでやんす。事実やアイデア自体には著作権が発生しないでやんす。だからこそ、この問題は法的というより倫理的な問題として捉えるべきでやんす。学術的な文脈では先行研究への言及は必須でやんすが、小説の世界では参考文献リストに何を載せるかは著者の裁量に委ねられているでやんす。」
ずん
「つまり法律的にはセーフだけど、モラル的にはアウトってことなのだ?」
やきう
「モラルなんて、所詮は弱者の武器や。強い者が勝つんが世の常やで。」
でぇじょうぶ博士
「やきう君の冷笑的な態度も一理あるでやんすが、この件の興味深いのは『権力勾配』の問題でやんす。直木賞作家と発行部数で一桁も劣るマイナージャンルの書き手。この非対称な関係性において、一方が他方のリサーチを利用しながら出典を明示しないことは、構造的な搾取に見えるでやんす。」
ずん
「でもさ、原田さんも篠田さんの小説を『優れた作品』って褒めてるじゃん。怒ってないんじゃないのだ?」
やきう
「それ、大人の対応ってやつやろ。本音では激おこやと思うで。」
でぇじょうぶ博士
「おそらくその通りでやんす。原田氏は作品自体は評価しつつも、『願わくば適切な手続きのもとで記されてほしい』と述べているでやんす。これは非常に抑制された批判でやんす。もし立場が逆なら、もっと激しい非難が飛んでいたかもしれないでやんすね。」
でぇじょうぶ博士
「シンプルでやんす。参考文献リストに原田氏の著書を加えるだけでよかったでやんす。それだけで、この倫理的な疑念の大半は解消されたでやんす。むしろ『ラッセン研究の第一人者の業績を踏まえて創作した』と明示することで、作品の信頼性も高まったはずでやんす。」
やきう
「でもそれやったら、原田って奴の本が売れてまうやん。商売敵やで。」
でぇじょうぶ博士
「ああ...そういう計算があったのかもしれないでやんすね。実際、書評では篠田氏の『リサーチ力』が賞賛されていて、原田氏の著書への言及はないでやんす。これは意図的な情報統制のように見えるでやんす。」
やきう
「ワイらみたいな底辺には関係ない話やけどな。」
でぇじょうぶ博士
「いや、これは誰にでも起こりうる問題でやんす。SNSの投稿、ブログ記事、同人誌...誰かの努力の成果が、より影響力のある人に利用され、出典も示されずに消費される。デジタル時代の『見えない搾取』でやんすよ。」
ずん
「じゃあボクたちはどうすればいいのだ?自分の研究成果を守る方法はないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「完全に防ぐのは難しいでやんす。でも、自分の業績をきちんと記録に残し、発信し続けることが重要でやんす。原田氏がXで情報を発信していたからこそ、今回の類似性を指摘できたでやんす。」
やきう
「つまり、やられたらやり返せってことか。倍返しや!」
でぇじょうぶ博士
「そういうことじゃないでやんす...。むしろ、この件が提起しているのは『引用と剽窃の境界線』という古くて新しい問題でやんす。学術論文なら明確なルールがあるでやんすが、小説やエッセイではグレーゾーンが広いでやんす。」
ずん
「難しいのだ...。でもさ、篠田さんもラッセンのこと詳しく調べたんじゃないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「もちろん調べたでやんしょう。でも『誰が最初にその視点を提示したか』が重要でやんす。原田氏は『ラッセンを美術史的に再評価する』という問題設定自体を2013年から提唱してきたでやんす。その枠組みを利用しながら、参照元を示さないのは学問的誠実性に欠けるでやんす。」
やきう
「まあ、世の中そんなもんやろ。弱肉強食や。嫌なら最初から有名になっとけって話や。」
ずん
「それもそうなのだ...。じゃあボクも今から有名になればいいのだ!」
やきう
「お前、さっき『金持ちにならない』言うてたやないか。」
でぇじょうぶ博士
「やれやれ...。ところで、この問題にはもう一つ興味深い側面があるでやんす。それは『物語の力』でやんす。篠田氏は学術的なリサーチ内容を、サスペンスフルな小説という形式に変換することで、より広い読者に届けたでやんす。これは一種の『知の翻訳』でやんす。」
ずん
「つまり、難しい研究をわかりやすくしてあげたってことなのだ?それって良いことじゃん!」
やきう
「翻訳料払わんかったら、それはただのパクりやろ。」
でぇじょうぶ博士
「まさにその通りでやんす。知の普及と知的財産権のバランスをどう取るか。これは現代社会が直面している大きな課題でやんす。YouTubeの解説動画、まとめサイト、AIによる要約...情報の二次利用と原著作者の権利保護は、常に緊張関係にあるでやんす。」
ずん
「じゃあさ、原田さんは怒る権利があるってことなのだ?」
でぇじょうぶ博士
「法的権利は微妙でやんすが、少なくとも『適切な言及がなかった』と指摘する道義的権利はあるでやんす。そして実際に、彼は非常に抑制的な形でそれを行ったでやんす。これ自体が一つの『大人の対応』でやんすね。」
やきう
「大人の対応ねぇ...。ワイやったらXで炎上させるけどな。」
ずん
「でもそれって、結局自分の評判も下げるんじゃないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「その通りでやんす。だからこそ原田氏は、冷静に事実を列挙し、『状況証拠に基づく推測』と断った上で、問題提起という形を取ったでやんす。これは非常に戦略的でやんす。」
やきう
「戦略的って...結局、計算高いってことやろ。」
でぇじょうぶ博士
「計算高いというより、理性的でやんす。感情に任せて騒ぐより、証拠を積み上げて冷静に論じる方が、長期的には効果的でやんす。実際、この書評は全国各紙に配信され、多くの人の目に触れることになったでやんす。」
ずん
「すごいのだ...。でもさ、これって結局どうなるのだ?篠田さんは謝るのだ?」
やきう
「謝るわけないやろ。無視や無視。時間が解決してくれるわ。」
でぇじょうぶ博士
「おそらくやきう君の予想通りになる可能性が高いでやんす。直接的な法的責任はないでやんすし、篠田氏側から公式な応答がある可能性は低いでやんす。でも、この指摘自体は記録として残るでやんす。」
でぇじょうぶ博士
「いや、意味は大きいでやんす。今後、誰かが『青の純度』とラッセンの関係を調べる時、必ず原田氏の指摘に行き当たるでやんす。そして『ああ、この小説の背景にはこういう研究があったのか』と知ることができるでやんす。これは一種の『知的な復讐』でやんすね。」
ずん
「でもさ、そもそもラッセンって誰なのだ?イルカの絵を描く人?」
でぇじょうぶ博士
「そうでやんす。クリスチャン・ラッセンは、バブル期に日本で爆発的人気を博したマリンアート画家でやんす。キラキラした海中にイルカやクジラが泳ぐ、あの独特な画風を確立したでやんす。ただし、その販売方法が問題視され、『美術』というより『商品』として扱われてきたでやんす。」
ずん
「つまり、芸術家としては認められてなかったってことなのだ?」
でぇじょうぶ博士
「まさにその通りでやんす。原田氏の研究の核心は『商法の問題と作品の芸術的価値は別物として評価すべき』という主張でやんす。そしてこのテーマそのものが、『青の純度』の主題になっているでやんす。つまり、研究の問題設定自体が小説の骨格になっているでやんすよ。」
やきう
「それ完全にアウトやん。モロパクやないか。」
でぇじょうぶ博士
「アイデアのパクリは法的にはグレーゾーンでやんすが、学術的誠実性の観点からは問題でやんす。特に『問題設定』というのは研究の最も独創的な部分でやんすからね。」
ずん
「じゃあやっぱり、ボクも研究者にはなりたくないのだ。苦労して調べたことパクられるなんて嫌なのだ!」
やきう
「お前に研究なんてできるわけないやろ。せいぜいパクる側や。」
ずん
「ひどいのだ!でも...ボク、この話聞いてたら、なんか『青の純度』読みたくなってきたのだ。」
でぇじょうぶ博士
「それは良い着眼点でやんす。実は原田氏も『小説として優れている』と評価していて、『ぜひ読んでほしい』と推奨しているでやんす。倫理的問題を指摘しつつも、作品の価値は認めているでやんす。」
やきう
「それって結局、宣伝してあげてるようなもんやん。お人好しすぎやろ。」
ずん
「いやいや、これって高度な戦略なのだ!だって、『優れた作品だからこそ、適切な手続きを踏んでほしかった』って言えば、読者は『じゃあ元ネタの研究も読んでみよう』ってなるのだ!」
でぇじょうぶ博士
「...ずん、今日は珍しく鋭い指摘をするでやんすね。その通りでやんす。原田氏は『青の純度』と『ラッセンとは何だったのか?』の双方を読むことを推奨しているでやんす。これにより、両方の本の売上が伸びる可能性があるでやんす。Win-Winでやんすね。」
やきう
「Win-Winって...片方は勝手にパクっといて、それはないやろ。」
ずん
「でもさ、考えてみれば、ボクたちもこうやって議論することで、両方の本に興味持ったじゃん。原田さんの作戦勝ちなのだ!」
でぇじょうぶ博士
「そうでやんす。この書評自体が、一種の『逆襲の書』になっているでやんす。表面的には冷静な問題提起でありながら、実質的には自著の宣伝にもなっているでやんす。これは非常に計算された戦略でやんす。」
ずん
「腹黒いっていうか...生き残るための知恵なのだ!」
でぇじょうぶ博士
「やれやれ...。まあ、知的財産を巡る攻防というのは、こういうものでやんす。直接的な対決ではなく、間接的な圧力。法廷ではなく、世論の場で。これが現代の知的戦争でやんす。」
やきう
「戦争って...大げさやなぁ。所詮は本の話やろ。」
ずん
「いやいや、これは重要なのだ!だって、誰かの努力が正当に評価されないって、すごく不公平じゃん。ボクもいつか何か発見したら、ちゃんと評価されたいのだ!」
やきう
「お前が何か発見する確率より、ワイが宝くじ当たる確率の方が高いわ。」
ずん
「むぅ...。でも、この話を聞いて思ったのだ。結局、世の中って『誰が先に言ったか』より『誰が上手く伝えたか』が大事なんじゃないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「...それは一面の真理でやんす。学術的な正当性と、社会的な影響力は必ずしも一致しないでやんす。篠田氏は小説という形式を使うことで、原田氏の研究よりも遥かに多くの読者にリーチしたでやんす。これは『知の民主化』と見ることもできるでやんすが...」
やきう
「でも元ネタに金払わんかったら、それはただの泥棒やろ。」
ずん
「うーん...難しいのだ。でも、ボクは思うのだ。もしかしたら、これからはみんなが『誰の研究を元にしてるか』をもっとオープンにする時代が来るんじゃないかなって。」
でぇじょうぶ博士
「理想論でやんすが、その方向に進むことは望ましいでやんす。オープンサイエンス、オープンアクセス...知識の共有と原著作者の権利保護を両立させる試みは、すでに始まっているでやんす。」
ずん
「でもさ、理想がなかったら何も変わらないのだ!だからボクは、この原田さんの勇気ある告発を支持するのだ!...って、あれ?ボク、最初は『別にいいじゃん』って言ってなかったっけ?」
やきう
「お前、話聞いてるうちに洗脳されとるやんけ。」
ずん
「洗脳じゃないのだ!これは...成長なのだ!ボクも立派な知的財産権の擁護者になったのだ!」
でぇじょうぶ博士
「やれやれ...。まあ、議論を通じて考えが変わるのは健全なことでやんす。」
ずん
「そうなのだ!だからボクは今日から、誰かの研究を参考にする時は、ちゃんと出典を明記するのだ!...って、ボク研究なんてしてなかったのだ。」
やきう
「最初から言うてるやろ。お前に研究は無理や。」
ずん
「じゃあボク、篠田さんみたいに小説家になるのだ!他人の研究をパク...参考にして、ベストセラー作家になるのだ!」