ずん
「新聞社を辞めて豆腐屋って、ボクもいけるんじゃないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「ずんは何も辞めてないでやんす。そもそも何かを始めてもいないでやんす。」
やきう
「ワイかて豆腐くらい作れるわ。水に大豆入れてグツグツするだけやろ。」
でぇじょうぶ博士
「それはただの大豆スープでやんす。豆腐作りは化学反応の塊でやんすよ。にがりの濃度、温度管理、凝固時間…すべてが精密科学でやんす。」
ずん
「じゃあ博士が作ったら完璧な豆腐ができるってことなのだ?」
でぇじょうぶ博士
「理論上は可能でやんすが、おいらは料理すらまともにできないでやんす。計算式と実践は別物でやんすからね。」
やきう
「つまり使えへんってことやな。せやけど、新聞記者からバルセロナの豆腐屋って、どう考えても意味わからんわ。」
でぇじょうぶ博士
「これが『一身二生』という概念でやんす。伊能忠敬は49歳で隠居後、測量という全く新しい人生を始めたでやんす。清水さんも同じく、論説委員という知的労働から、豆腐という物理的創造への転換を果たしたわけでやんす。」
ずん
「でもさ、なんでバルセロナなのだ?日本で豆腐屋やればよかったのでは?」
でぇじょうぶ博士
「そこが面白いポイントでやんすね。バルセロナには豆腐文化がほとんどないでやんす。つまり、競合が少なく、希少価値が高い。記者の嗅覚が働いたんでやんす。」
やきう
「なるほどな。ブルーオーシャン戦略ってやつか。でも言葉の壁とかエグそうやけどな。」
でぇじょうぶ博士
「まさにそこでやんす。新聞記者時代の取材力や人脈構築スキルが活きるわけでやんす。文化の橋渡し役としての経験が、異国での商売に直結するでやんすよ。」
ずん
「へぇ〜。じゃあボクも何か始めてみようかな…」
やきう
「お前が始められるもんなんて、せいぜい昼寝の記録更新くらいやろ。」
ずん
「ちょっと!でもさ、この清水さんって人、49歳じゃなくて定年後って書いてあるのだ。もっと歳いってるんじゃないのだ?」
でぇじょうぶ博士
「その通りでやんす。伊能忠敬は49歳で隠居後に測量を始めましたが、清水さんは60代でやんす。より高齢での挑戦という点で、さらに勇気がいる決断でやんすね。」
やきう
「60代で異国で商売始めるとか、ワイには無理やわ。年金もらってのんびりするのが正解やろ。」
でぇじょうぶ博士
「しかし、それこそが現代日本の問題でやんす。平均寿命が延びて、定年後の人生が30年以上ある時代に、『のんびり』だけで過ごすのは精神的な死を意味するでやんす。」
ずん
「30年も!?じゃあボクなんて、あと80年くらい生きちゃうってことなのだ?」
やきう
「お前の計算どうなっとんねん。小学生からやり直せや。」
でぇじょうぶ博士
「福沢諭吉は『一身二生』を否定的に捉えていたでやんすが、井上ひさしは前向きに解釈し直したでやんす。価値観の転換を強制されるのではなく、自ら選び取る。そこに意味があるわけでやんす。」
ずん
「つまり、豆腐屋になるのも自分で選んだってことなのだ。誰かに言われたわけじゃないと。」
でぇじょうぶ博士
「そうでやんす。清水さんは『根が面白がりの性格』『記者根性』『好奇心が勝つ』と語っているでやんす。これは受動的な変化ではなく、能動的な選択の結果でやんすね。」
やきう
「せやけど、好奇心だけで商売が続くわけないやろ。絶対どっかで挫折しとるはずや。」
でぇじょうぶ博士
「鋭い指摘でやんす。実際、語学の壁、文化の違い、製造ノウハウの習得…乗り越えるべき困難は山積みだったはずでやんす。しかし記者時代に培った『取材力』が武器になったでやんす。」
でぇじょうぶ博士
「大いにあるでやんす。取材とは、知らないことを知るプロセスでやんす。豆腐職人に話を聞き、製法を学び、試行錯誤を重ねる。これはまさに取材そのものでやんす。」
やきう
「なるほどな。せやけど、バルセロナの客って豆腐の食べ方知っとるんか?冷奴とか麻婆豆腐とか。」
でぇじょうぶ博士
「そこが商売の難しさでやんすね。商品を売るだけでなく、食文化そのものを伝える必要があるでやんす。いわば文化の伝道師でやんす。」
ずん
「じゃあ、豆腐屋というより豆腐文化大使みたいなものなのだ?」
でぇじょうぶ博士
「まさにその通りでやんす。単なる商売人ではなく、日本文化の架け橋になっているわけでやんす。これは新聞記者としての使命感とも通じるでやんすね。」
やきう
「ええ話やけど、結局儲かっとるんかいな。赤字垂れ流しで道楽やってるだけちゃうん?」
でぇじょうぶ博士
「商売の成否は記事からは読み取れないでやんすが、重要なのは経済的成功だけではないでやんす。生きがいや自己実現という無形の価値があるでやんす。」
ずん
「無形の価値…つまり、お金じゃ買えない何かってことなのだ?」
やきう
「キレイごと言うとるだけやろ。金がなきゃ何もできへんのが現実や。」
でぇじょうぶ博士
「確かに経済基盤は重要でやんす。しかし、定年まで勤め上げた清水さんには退職金もあり、ある程度の蓄えがあったはずでやんす。その上での挑戦だったと推測できるでやんす。」
ずん
「なるほど…じゃあ、お金がないボクには無理ってことなのだ…」
やきう
「最初からわかっとったことやろ。現実見ろや。」
でぇじょうぶ博士
「ただし、挑戦の形は人それぞれでやんす。バルセロナで豆腐屋を開く必要はないでやんす。自分なりの『一身二生』を見つければいいだけでやんす。」
ずん
「ボクなりの一身二生…うーん、何があるかなぁ。」
やきう
「お前の場合、一身一生すらまともに生きてへんやろ。二生目とか百年早いわ。」
でぇじょうぶ博士
「厳しい指摘でやんすが、的を射ているでやんす。重要なのは、第一の人生で何かを成し遂げてから、第二の人生を考えることでやんすね。」
ずん
「じゃあボク、まず第一の人生を頑張ってみるのだ!」
やきう
「今さら?もう手遅れやろ。諦めて楽な道選べや。」
ずん
「うーん…でも、バルセロナの豆腐屋さんは60代で始めたんでしょ?ボクもまだ間に合うのだ!」
でぇじょうぶ博士
「その前向きさは評価するでやんすが、清水さんは新聞記者として30年以上のキャリアがあったでやんす。ずんには何のキャリアもないでやんす。」
やきう
「ボコボコに論破されとるやんけ。もう休め。」
ずん
「でもさ、好奇心と面白がりの性格があれば何とかなるって言ってたのだ!ボクにもそれくらいあるのだ!」
でぇじょうぶ博士
「好奇心だけでは豆腐は固まらないでやんす。にがりと大豆と、そして技術が必要でやんす。」
やきう
「結局、何も持ってへんやつは何もできへんってことやな。世知辛い世の中や。」
ずん
「じゃあボク、せめてバルセロナに豆腐食べに行くのだ!それくらいならできるのだ!」
でぇじょうぶ博士
「旅費はどうするつもりでやんすか?」
ずん
「…クラウドファンディングで集めるのだ!『ずん、バルセロナで豆腐を食す』プロジェクト!」
ずん
「じゃあもう国内の豆腐屋さんで我慢するのだ!近所のスーパーの豆腐でも十分美味しいのだ!」